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お知らせ

色彩のみからなる商標 ~登録要件について~

昨年、「MONO消しゴム」について、兵庫県小野市観光協会が商標権者の許可を得ずに類似品を作った際のトラブルについて、類否判断を中心に簡単に説明しましたが、そもそも「色彩のみからなる商標」とはどういうものでしょうか。
上島珈琲株式会社のニュースリリースで、同社が食品業界では初の色彩のみからなる商標の登録を受けたとのことですので、それに関連する形で説明します。
ニュースリリースは下記サイトをご覧ください。
https://www.ucc.co.jp/company/news/2019/rel191211.html

1.色彩のみからなる商標の種類
願書に記載した商標が、色彩を表示した図又は写真であって、商標の詳細な説明に、色彩のみからなる商標と認識し得る記載がなされている場合で、以下の3種類です。
具体的には、色彩のみからなる商標を構成する色彩を特定するための色彩名、三原色(RGB)の配合率、色見本帳の番号、色彩の組み合わせ方(色彩を組合せた場合の各色の配置や割合等)等についての具体的かつ明確な説明が記載されている必要があります。
(1) 単色
例1)<左上の画像をクリックしてください。以下同じ>に挙げたような商標で、この場合は、商標の詳細な説明に「商標登録を受けようとする商標は、赤色(RGBの組合せ:R255、G0、B0)のみからなるものである。」のように記載されます。
(2) 色彩の組合せ
例2)に挙げたような商標で、この場合は、商標の詳細な説明に「商標登録を受けようとする商標(以下「商標」という。)は、色彩の組合せのみからなるものである。色彩の組合せとしては、赤色(RGBの組合せ:R255、G0、B0)、青色(RGBの組合せ:R0、G0、B255)、黄色(RGBの組合せ:R255、G255、B0)、緑色(RGBの組合せ:R255、G128、B0)であり、配色は、上から順に、赤色が商標の縦幅の50パーセント、同じく青色25パーセント、黄色15パーセント、緑色10パーセントとなっている。」のように記載されます。
(3) 商品等における位置を特定
例3)、例4)に挙げたような商標で、例3)は、商標の詳細な説明に「商商標登録を受けようとする商標(以下「商標」という。)は、色彩のみからなるものであり、包丁の柄の部分を赤色(RGBの組合せ:R255、G0、B0)とする構成からなる。なお、包丁の刃及び柄の部分の破線は、商品の形状の一例を示したものであり、商標を構成する要素ではない。」のように記載され、例4)は商標の詳細な説明に「商標登録を受けようとする商標(以下「商標」という。)は、色彩のみからなるものであり、ゴルフクラブ用バッグのベルトの部分を赤色(RGBの組合せ:R255、G0、B0)とする構成からなる。なお、ゴルフクラブ用バッグのベルトの部分以外の破線は、商品の形状の一例を示したものであり、商標を構成する要素ではない。」のように記載されます。

2.色彩のみからなる商標における使用による識別力の獲得の証明に関する取扱い
色彩のみからなる商標は、商標審査基準に従い、原則として、商標法第3条第1項第2号(商品・役務について慣用されている商標)、同項第3号(商品の産地、販売地、品質等又は役務の提供の場所、質質等を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標)又は同項第6号(需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標)に該当すると判断されます。
よって、色彩のみからなる商標が登録されるためには、色彩が使用された結果、当該色彩が独立して(図形や文字等と分離して)その商品又は役務の需要者の間で特定の者の出所表示として認識されていることが必要となります。
この使用により識別力を有するに至ったか否かについての判断は、商標法第3条第2項に関する商標審査基準に従って行うこととなります。
なお、出願された商標が、1.の(3)で挙げた、商品等における色彩を付する位置を特定した色彩のみからなる商標である場合には、使用により識別力を有するに至ったか否かの判断においてその位置も考慮して判断します。
商標法第3条第2項とは、1項の第3号から第5号までに該当する商標であつても、使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるものについては、同項の規定にかかわらず、商標登録を受けることができるという規定で、6号に該当するとされた場合に、この審査基準をクリアできれば、「6号に該当しない」と判断され、拒絶理由に該当しなくなります。

3.UCCの登録について
出願には、上記の審査基準通り、3条1項各号のいずれかに該当するとの、拒絶理由が通知されました。
それに対し出願人は、3条2項に該当する、すなわち使用により識別力を獲得している旨の意見書を提出し、その点についての証拠を提出しています。
証拠の例は、
・日本全国で「三色缶コーヒー」が実際に販売されている店舗・自販機での販売写真
・「三色缶コーヒー」の販促活動、具体的にはサンプリング活動の様子やノベルティ商品の写真
・出願人の「三色缶コーヒー」と他社とのコラボ商品の写真
・出願人が運営している「コーヒー博物館」での「三色缶コーヒー」の販促活動の様子の写真
・「三色缶コーヒー」が紹介されているウェブ広告
・「三色缶コーヒー」が紹介されている雑誌・新聞等記事(「三色缶コーヒー」がギネスに認定された記事など)
・「三色缶コーヒー」が紹介されているウェブ記事
・「三色缶コーヒー」が紹介されているテレビ番組の該当場面
などです。
使用により識別力を獲得したと認められるためには、かなりの証拠を積み上げなければなりません。
また、出願時には、指定商品が、
第29類 コーヒー入り乳飲料,乳飲料,乳製品
第30類 コーヒー,ミルクコーヒー,缶入りコーヒー飲料,紙容器入りのコーヒー飲料)
でしたが、補正により
第29類 コーヒー入り乳飲料品
第30類 缶入りミルクコーヒー飲料
に減縮されています。
これ以外の商品は、使用によって識別力を獲得していない、すなわち、三色容器によって販売されていないか、されていてもさほど有名でなかった、ということです。

4.登録の決め手
審査基準において、使用により識別力を獲得していることを要求されるタイプの商標では、1)使用によって周知性や著名性を獲得すること、2)使用された商標と使用された指定商品(役務)が、出願に係る商標と、その指定商品(役務)と同一であることが必要です。
この例の出願経過は、そのことがよくわかるようになっています。

ないお、3条2項の審査基準は下記サイトを参照してください。
https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/trademark/kijun/document/index/11_3-2.pdf